技術書典9に出展側で参加しました。 #技術書典

同人誌即売会

新型コロナウイルスの影響で初の本格オンライン開催となった同人誌即売会 "技術書典9" に出展側で参加できたので、その時の思い出を綴っておくことにしました。


インターネット上で から に渡って開催された 技術書典9 に出展側として参加しました。技術書典は技術書オンリーの同人誌即売会、すなわち 技術書系同人誌だけを扱う即売会 です。

今回の技術書典9は、技術書典史上初めての本格オンライン開催でした。 新型コロナウイルスの影響で、さまざまな大型イベントが中止を余儀なくされる中、技術書典も前回の8という早い段階で中止を決断されていたのが心に残っています。 そのときには「技術書典 応援祭」という形で、技術書典8に参加できなかった出展者と参加者の未練を供養する策を急遽打ち出すなど、その采配と意味でもそれを達成する同人誌文化への愛情を強く感じさせる、そんな貴重な回にも感じられました。

オンラインイベント

一般に「オンラインイベント」という形態にも、慣れとか相性があるのか、その存在を捉えて楽しめる人もいれば、 自分みたいにオンラインとなるだけで実態が捉えられなくなって脇見や後回しにしがちで精神力を費やしてみたり、無に向かう感じの窮屈感を覚える人も他にも居るかもしれません。

少なくとも自分はそんな性格だったものだから、技術書典9にも気力が持つか不安を感じていましたけれど、始まってみれば、不思議な「実感」のある 楽しいイベントにも感じられました。

実感を繋ぎとめながら⋯

実際のところ、開催までは捉えどころがない心地だったのですけれど、もしかすると湊川さん(@llminatollさん )と自分とで開催している「もくもく執筆会」として湊川さんの提案で始まった「Twitter 上でのもくもく執筆会開催」も効果があったのかもしれません。

そうして技術書典開催までの 42 日間を 2 人でほとんど毎日カウントダウンしていたおかげで、個人的には当日まで重さを感じながらも、続けていくうちに否応なく実感を絶やさずに居られたような気もします。たしかに、執筆会を開くときもそういう感じですもんね。決めたからには、開催しなければならない。 他所見をしたり、自分都合で後回しにしたりして、うっかりすると軽んじがちなオンラインを、毎日のツイートに縛ってで繋ぎ止めていたような心地。

終わってみればそんな実地での拘束感ってもしかして、オンラインに向かうときとも共通するかもしれない気がしたことも、 今回に得られたひとつの「実感」なのかもしれません。

締め切りは超越した⋯

ところで、同人誌を書いているとだんだん書ける速度が上がってくる、締め切り直前は進捗が爆発的に増える、そんな話をたびたび聞いたりしますけれど、 自分の場合は次第に書くのに時間がかかるようになっていく印象がして。 それこそ締め切り当日でも進捗が変わらないという、もはや締め切りさえも超越した存在になってしまっている気がします。

そう、ちょうど自著 「プログラマーのための新千歳空港入門」 を書き上げた 2 年半ほど前の頃からなのですよね。 そのときは締め切りに向けて別のテーマで書いていたのですけれど、締め切り1週間前になっても一向に進まず 「これは別の自分の心が躍るテーマに切り替えないと終わらない!」そんな思いで急遽選んで心のままに生まれた本が、この「新千歳空港入門」だったのでした。

それはさておきそんなこんなで今回も、もくもく執筆会でのカウントダウンのときから手をつけていた原稿が進まないまま当日に突入、 調子が出てきたのは初日という締め切りから解放された後からでした。解放されたからなのか、それともたまたまなのか、 そのあたりについては分からないですけれど、そろそろ本当に締め切りを超越すべき時なのかもしれません。

技術書典9を迎えるにあたって

そんな技術書典9を迎えるにあたって、どんなことを気にしてみたかを思い返してみると、 思い浮かぶのは「製本版の扱い」が真っ先に思い浮かびます。 それ以外のことについては意識して探すと逆に見えない印象もしました。

そう思うのは、もしかするとほとんど全ての人が当選、参加可能な方針が打ち出されたこともあるかもしれません。 同人誌即売会といえばこれまで「当たるかどうか」がひとつの大きな出発点で大イベント、 それがなくなり最初から参加が確定することで、最後の締め切りが最初の目標になっていたのは画期的だったように思います。

オンラインマーケットでの販売については、過去に自分は 「技術書典 応援祭」 で体験していたのもあるかもしれません。

紙の本はどうしよう

紙の本については、前回の「技術書典 応援祭」での反応が極めて低かったことから、今回も往復配送料をかけてまで 製本版を用意する価値があるのか、そう思って最初は「今回は製本版は無しにしよう」と考えていました。

それでも会期が迫るにつれて、もともと自分は同人誌を製本版で届けたい気持ちがあること、 今回も製本版が下火だったかどうかは体験しないとわからないこと、そんなことを思って結局のところ 製本版も出してみたのですけれど、結果としては正解でした。

紙の本は大盛況

技術書典さんが、買い手への配送料負担無料、電子版とのセット、製本版購入特典、製本版を応援したいお気持ちの表明、 などなど、きっとそんな支援もあってか、応援祭のときとは明らかに違う注目度で製本版も見てもらえていた印象でした。 可能ならいつでも製本版と電子版とを選択できる状況を、そして製本版を届けたい気持ちの勝る自分としては、 技術書典さんのこの活動はとても嬉しい支援の方向でしたし、 おかげさまで充実した技術書典9開催期間を過ごすことができました。

製本版の販売部数決めには反省が残る

今回、紙の本の納品締め切りが開催開始日よりも後に設定されていたのが面白いところだったのですけれど、 その上でさらに納品期限が最終日の午前中になっているところも、技術書典9の興味深いところでした。

せっかくなら技術書典9の閉会後、販売部数が確定した後に納付の方が、自分みたいな手持ち在庫を持っている身としては 嬉しいようにも思ったのですけれど、少なくとも今回の部数予測を立てないといけない仕様が、自分にとって貴重な体験を 残してくれた心地がします。

在庫は残して終わりたい気持ち

配送料はこちら持ちなので、販売部数が残るとその分の配送料を負担する必要が出てくるのですけれど、 前回の応援祭を考えると配送料の割合が大きくなりそうで「できればぎりぎり売り切れるくらい」を目標に 予測を立ててしまったのですよね。 結果的には予測に近い感じだったのですけれど、それでも閉会1時間前くらいのところで「プログラマーのための新千歳空港 2020年版」 製本版の在庫が無くなったのを見たときに、ホッとする反面、申し訳ない心地がしました。

やっぱりイベント終了その瞬間まで来てくれる人に本を並べて待っていたい、そんな気持ちで 同人誌即売会に臨んでいたことを思い出しては、配送料を気にして在庫数を抑えてしまったことに どことなく自分には良くない判断だったように感じます。

紙の本を出してよかった

そうやっていろいろと思うところがあって、紙の本を出してよかったなって感じる技術書典9でした。

もともとは在庫が戻ってこないことを目標にしていた紙の本ですけれど、こうして幾つかの本が余ってみて、 今は配送で戻ってくるのが楽しみに思える不思議な感覚です。 その本たちだけは、同人誌即売会の会場に確かに足を運んだんですよね。 そう思うと、頑張ってきてくれた感をその本たちに感じるように思います。

技術書典9の当日を迎えて

技術書典9の当日を迎えてみると、Twitter 上での技術書典の盛り上がりがしっかり伝わってきたのですけれど、 これは自分が技術書典を気にして見ていたからという要員は大きいのでしょう。 それ以外については、本を買ってくれたことを通知するメールが届いてくるのが、個人的には "技術書典9" の実感だったように思います。

同人誌即売会の現地とも似た感覚

その中でも「電子版+紙セット」を買ってくれた通知が届いてくると、とても嬉しい心地がしました。

その人が製本版を選んでくれたこと、いずれその人の手元に製本版が届くこと、そんなことを想像すると楽しくて、 その体験はどことなく、同人誌即売会の現地で紙の本に目を止めてくれて、手に取ってくれて、そしてそれを手渡して、嬉しそうに持ち帰ってくれる、 そんな体験と似ているようにも感じられました。物体が世界を繋ぎ止めるのだろうか。

出展準備は機械的

ただ、実地での同人誌即売会といえば、荷物を抱えて会場に向かい、開会前の出展準備も心の躍る大きな楽しみのひとつに思うのですけれど、 今回はオンライン開催ということもあり、事前の好きなタイミングにオンラインショップに出品する感じに準備ができたので、 手軽な反面、単に「物を売る」みたいな感覚でした。準備の当座はそれが実感に繋がらに要因だったようにも感じますけれど、 こうして会期を終えた後に振り返ってみても、どこか少し味気ないところだったようにも感じます。

いずれにしても、準備を終えて本を並べて、技術書典9の開会を待ちます。

そんな今回のオンライン開催で良かったというか、特徴的だったのは、これまでの実地開催と比べて、本の説明をしっかり書く機会があったところに感じます。 実地開催だとそれがどんな本なのかは「目で引く」くらいでしか紹介するスペースがなかなか取れないのですけれど、今回はたっぷり 1,000 文字で それをアピールできたので、より技術書の質にフォーカスしたイベントになっていたかもしれません。

内側の繋がりは感じられない

そして今回は、同人誌を執筆する志を同じくする "同人" の存在を感じ取るのも難しかったように感じます。

現地開催での同人誌即売会であれば、開催時刻より前に会場入りして見渡せば「仲間」の存在が目に飛び込んできて、 ときに挨拶を交わしたりしながら準備に精を出す、そんな体験が普通にできるし、それも大きな楽しみのひとつだったりするのですけれど、 それを実感としてはほとんど感じられなかった気がします。 これは単に自分がオンラインを捉える力が弱いせいかもしれないですけれど。 そんなのもあって、いつも技術書典会期のときに再会しては嬉しく感じた、福岡の友人たちは今回はどうしてらしたのでしょうね。 そんな気持ちが頭の空中で今もちょっと滞っていたりします。

そんなところもあって自分の中では "売れるかどうか" が関心ごとの多くになってしまっていたような気がして、 それについては自分の中で残念にも思えるところでした。そういう面でも先ほども書いた製本版の嬉しさが、その感覚の隙間を補ってくれたように感じます。

届いてくる「戦利品」の声

もうひとつ、今回の技術書典で興味深かったのが、会期が終了した後に Twitter 上でいろんな人たちから「戦利品」の声が購入した紙の写真とともに アップされていたことでした。

この光景は実地での同人誌即売会が開催されるとよく見られる光景ですけれど、それがオンライン即売会でも積極的に行われていたのが、 今回の技術書典9でとても心に残る光景でした。

技術書典が紙の本を推していたのもあるとは思うのですけれど、もしかして紙の本の発送日がみんな会期後で揃えられていて、 そして熱量が高い閉会直後に速やかに発送が始まったのも、もしかして届くのを心待ちにする気持ちを高めてくれたのかなって想像したり。 そんな理屈はさておき、いずれにしてもいろんな人が欲しい本を手にして喜ぶ姿が届いてくるの、まさしく同人誌即売会の景色で 嬉しいひとときでした。

新千歳空港入門

そんな技術書典9でさらに嬉しく感じたのが、自著の 「プログラマーのための新千歳空港入門」 について、いたるところから 良い評判が届いてくるところでした。しかも丁寧にコメントを添えてくれる人が多くいらして、それがまた嬉しい限りでした。

この本は技術書ではないように受け取られたりもしますけれど、自分的には「技術系同人誌」というカテゴリーに向けて けっこう本気で書いた自信作だったりするのですよね。

プログラミングというとときおり「技術」ばかりに偏りがちで、そこに潜む楽しさみたいな、日常と一体になって織り成す世界があるような気がして、 プログラミングと向き合う中で出会った日常のさまざまな出来事も誰かに届けることができたなら。 もともと自分が他ならない「遊び」としてプログラミングと出逢ったせいもあってか、そんな気持ちで執筆した本になっています。

この本を読んで「新千歳空港、楽しそう」とか思ってくれたり、さらには本書にあるように、新千歳空港でプログラミングに明け暮れる体験をして、 その輪が広がってくれたら嬉しいなーと思いながら、届いてくる評判をとても嬉しく眺めてました。 そんな思い入れのある本だったので、それを技術書典9によってさらに多くの人に届けてもらえたことが嬉しい限りです。

Swift 言語の本を出してます。

そんな感じでなんとなく「新千歳空港」を主体に活動している感が自他ともに出ている感がしますけれど、 いちおうは Swift 言語にまつわる入門書をメインに活動中です。

今回は最初に述べた感じで、新刊が開催当日までの締め切りに間に合いませんでしたけれど、 その後に続く会期のおかげでかろうじて最終日にして 「Swift プロパティー入門〔第1部〕 の発刊に漕ぎ着けることができました。

Swift プロパティー入門は、Swift の変数や定数を基礎から高度なところまでじっくり眺めていくのがテーマです。 そのうちの今回「第1部」では、プロパティーの全体像をひととおり眺めて把握する本になっています。

そしてこの本の他にも、Swift のイニシャライザーを基礎から詳細の隅々まで解説した入門書 「Swift イニシャライザー大全」 や、 Swift の関数名の付けかたみたいな書き方の作法全般を整理した 「Swift らしい表現を目指そう」 みたいな本も販売してるので、 よろしければこちらもよろしくお願いしますね。

技術書典という主体の素晴らしさ

そんな印象の技術書典9でしたけれど、オンライン開催でありながらも紙の本に強く意識を向けた、その功績はすごいことに感じます。 なんか、紙の本に対する愛着をそこに強く感じられる心地がするのですよね。 そこにはどことなく、個人的にもっとも好きな 「超技術書典」 にも似た同人誌愛を感じるようでした。

新型コロナウイルスの影響で、普段通りの開催断念を余儀なくされる中、 今をどう乗り切るかではなく、今を機軸にふさわしい在り方を模索し実践しているように思えて、 それって並大抵なことではないように感じて。 「新しい生活様式」と口で言うのは簡単だけれど、昔の様式を今に当て嵌めるではなくて、 まさしく技術書伝達のための新しい生活様式を生んでいる感じ、 こういう人たちが時代を切り開くのかなって思ってみたり。

そんな感じで技術書典の見せてくれた、単なる「オンラインマーケット」に留まらない景色が、とても感動的でした。

技術書典の描く景色

そして会期が終わって、オンラインマーケットが継続再開を果たして。 次の "技術書典 10" ではいったいどんな世界を思い描いているのでしょうね。 オンラインマーケットを惜しみなく継続するその姿に、頼もしさを感じずにはいられない心地です。

なんにしても技術書典の、純粋に技術書を広めたいと思う姿勢はほんとにすごいと思って。 これこそが "著作者" が求める "出版者" の真の在り方のようにも感じたりしながら、 自分の中の技術書典9は閉幕しました。

技術書典という場を支持して、本を買ってくださった人、気にして眺めてくださった人、 技術書典9に携わった運営の方々、主宰の @mhidakaさん さん、 貴重な体験をどうもありがとうございました。